ひょんなことから松山千春

〜思考試行錯誤〜

 



もとはまじめな仕事の発想からだった。
留学生の日本語の授業が、進み方の具合でちょうどうまいこと
夏休み前の最後の時間1コマそれまでの内容から離れて自由に使えそうだったので
歌の聴き取りでもしようか、と前もって言ってみたらのってきた。

特に中国の学生達などは私達の知らないようなド演歌を知っていたりして
パーティなどのカラオケでしっかり堂々と歌えたりもするのだけれど
どうせ聴かせるならきれいな日本語で聴き取りやすく、また
覚えて日本の学生達とも楽しめるような歌がいいだろうと思いながら、
まずどんなの知ってる?と尋ねてみたら、ひとりが「松山千春」と即答。

ほう・・・・・

と、今度は日本の学生達に松山千春って聞いたらどんな歌知ってる?と尋ねたら、
「長い夜」とか「大空と大地の中で」とか。

ほう・・・・
今に根付いていたのか。


ど真ん中である。わたしの。

そんなの授業で聴き取りに使っていいなんて、
なんだか自分の趣味を押し付けているようで面映い。
でもいいの。学生が言ったんだから。
いいの。もうすぐ夏休みなんだから。


それで久しぶりにレンタルしに行ってみた。
「長い夜」や「大空と大地の中で」は無かったけれど、
『松山千春シングルAB面コレクション』っていうのを借りてみた。
他もいくつか、新しいスタンダードとも呼べそうなものも一緒に。「涙そうそう」とか「さくら」とか。


準備するのに日にちも無いし、自分のこともしたいしで、
夜遅くJRで帰るついでに一駅手前で降りてレンタルショップに行って借りてきたのを
翌日の夜また同じ順路で帰りに返そうと、雑用しつつ歌詞などチェックしながらかけていた。

・・・・むー・・・・やっぱり松山千春の曲は懐かしすぎる。
一緒に借りた夏川りみの声も森山直太朗の歌詞も一青窈の節回しも、
私には最近のざわついた時間の中のひといろでしかない。

けど松山千春の声や歌詞やメロディや節回しや、イントロや間奏やエンディングまでが、
は〜〜〜〜〜これはぜんぶ、すべてを引き戻す。
繰り返し聴いていたすべてを思い出させる。

学校の帰り道に友達と一緒に歌まねしながら帰っていたときの制服の生地の肌触りや、
その友達から借りたLPや、それをかけたうちの古いプレーヤーや、
再生と録音のボタンを両方押さないといけないボタンがカチャカチャ音のするラジカセや、
土曜の深夜にラジオでしゃべっていた松山千春の北海道訛を聞いていた布団の中や、
大人たちからすればきっと青臭かったであろう説教モードの口調や、
「季節の中で」や「時を越えて」が流れていたグリコアーモンドチョコレートや確かファンタか何かのCMの映像や、
出ないって言い張っていたザ・ベストテンのかちゃかちゃパタパタ点数が表示される数字盤や、
メッセージソングと言われた元気づけ系の歌詞の内容にほんとに元気づけられていた
ぎりぎりの中学生だった私の悔しさや・・・・


「季節の中で」で松山千春という人を知った小学生の私には、
大好きだったピンクレディーや西城秀樹とはなにか歌の感じが違う、
おおニューミュージックっていうのか、自分で作って歌うのか、そんな世界があったのか、と
並行して存在していた新しい層状の空気をめくったような不思議な発見だった。

しかもそれをシンガーソングライターと呼ぶのか、なんとかライダーみたいでかっこいい、と
真剣にその響きにもあこがれた。
小さい頃にはばあちゃんが小坂明子なんかのことを「自作自演」と呼んでいたが、
世の中にはこんなかっこいい呼び方があったのか、と発見続きだった。


思えば、小さい頃から歌を作ることはあったけれど
意識的に強く強く歌を作りたい!と感じたのは中学の始め頃に松山千春の「夜明け」を聞いてからだ。


学校で何をどうがんばっても悪くとられてしまう、どうにも悔しくやりきれず、
なぜ好意や誠意を言葉にしても伝わらないのかわからず、
その頃なにかのドラマの主題歌で毎晩テレビからなんとなく聞こえる「夜明け」の歌詞に
いつもどうしようもなく喉の奥が痛くなっていた。

好いたほれただけでなく、こんなふうに慰めてくれる歌もあるのかと知り、
自分の思いを歌にして歌うと私のように知らない人間にまで聞いてもらえるのかと感じ、
聞いてもらえるどころか自分の言葉を口ずさんでもらえさえして
全然自分の気持ちが周囲に伝わらない塞がれた私とはまるで大違いで
なんて羨ましい人なんだこの人は!と、まるで驚愕の大発見であった。


感じたところをなんとか歌にしたい、歌に搾り出したい、と
とにかくとにかく心を歌につなぐ意識を持つようになったあの頃の、
小学生だったり中学生だったりした私の、
すべての苦さや
今の私より数千倍も過敏に痛々しく呼吸していたむき出しの心のひりひりした感触をも
仕事中の私の机の横で、松山千春の歌はぜんぶ連れてきた。
「旅立ち」も「銀の雨」も「青春U」も「卒業」も「季節の中で」も「窓」も「初恋」も。ぜんぶ。

歌は、時間のすべてを閉じ込める琥珀だ。




2006.7.23

 

 

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