処女桜・夜桜・姥桜


  〜桜の森の満開の下の如きこの浮世〜
                  (2007年弥生と卯月)

坂口安吾の 『桜の森の満開の下』 ・・・をご存知か?
桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。なぜ嘘かと申しますと、桜の花の下へ人がより集まって酔っ払ってゲロを吐いて喧嘩して、これは江戸時代からの話で、大昔は桜の花の下は怖しいと思っても、絶景だなどとは誰も思いませんでした。近頃は桜の花の下といえば人間がより集まって酒をのんで喧嘩していますから陽気でにぎやかだと思いこんでいますが、桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になりますので、能にも、さる母親が愛児を人さらいにさらわれて子供を捜して発狂して桜の花の満開の林の下へ来かかり見渡す花びらの陰に子供の幻を描いて狂い死して花びらに埋まってしまう(このところ小生の蛇足)という話もあり、桜の林の下に人の姿がなければ怖しいばかりです。

       〜「桜の森の満開の下」 冒頭〜

見頃となった最初の週末。
弥生の末。
まだ蕾もある枝の下、
花の下で場所を取り、
人はやはり
狂う気マンマン。

むふふ。
良いではないか。

「お前が本当に強い男なら、私を都へ連れて行っておくれ。お前の力で、私の欲しい物、都の粋を私の身の廻りへ飾っておくれ。そして私にシンから楽しい思いを授けてくれることができるなら、お前は本当に強い男なのさ」
「わけのないことだ」
 男は都へ行くことに心をきめました。彼は都にありとある櫛や笄や簪や着物や鏡や紅を三日三晩をたたないうちに女の廻りへ積みあげてみせるつもりでした。何の気がかりもありません。一つだけ気にかかることは、まったく都に関係のない別なことでした。
 それは桜の森でした。
 二日か三日の後に森の満開が訪れようとしていました。今年こそ、彼は決意していました。桜の森の花ざかりのまんなかで、身動きもせずジッと坐っていてみせる。彼は毎日ひそかに桜の森へでかけて蕾のふくらみをはかっていました。あと三日、彼は出発を急ぐ女に言いました。
「お前に仕度の面倒があるものかね」と女は眉をよせました。「じらさないでおくれ。都が私をよんでいるのだよ」
「それでも約束があるからね」
「お前がかえ。この山奥に約束した誰がいるのさ」
「それは誰もいないけれども、ね。けれども、約束があるのだよ」
「それはマア珍しいことがあるものだねえ。誰もいなくって誰と約束するのだえ」
 男は嘘がつけなくなりました。
「桜の花が咲くのだよ」
「桜の花と約束したのかえ」
「桜の花が咲くから、それを見てから出掛けなければならないのだよ」
「どういうわけで」
「桜の森の下へ行ってみなければならないからだよ」
「だから、なぜ行って見なければならないのよ」
「花が咲くからだよ」
「花が咲くから、なぜさ」
「花の下は冷たい風がはりつめているからだよ」
「花の下にかえ」
「花の下は涯がないからだよ」
「花の下がかえ」
 男は分からなくなってクシャクシャしました。
「私も花の下へ連れて行っておくれ」
「それは、だめだ」
 男はキッパリ言いました。
「一人でなくっちゃ、だめなんだ」
「はじめてお前に会った日もオンブして貰ったわね」
 と、女も思い出して、言いました。
「俺もそれを思いだしていたのだぜ」
 男は嬉しそうに笑いました。
「ほら、見えるだろう。あれがみんな俺の山だ。谷も木も鳥も雲まで俺の山さ。山はいいなあ、走ってみたくなるじゃないか。都ではそんなことはなかったからな」
「始めての日はオンブしてお前を走らせたもんだったわね」
「ほんとだ。ずいぶん疲れて、目がまわったものさ」
 男は桜の森の花ざかりを忘れてはいませんでした。然し、この幸福な日に、あの森の花ざかりの下が何ほどのものでしょうか。彼は恐れていませんでした。
 そして桜の森が彼の眼前に現れてきました。まさしく一面の満開でした。風に吹かれた花びらがパラパラと落ちています。土肌の上は一面に花びらがしかれていました。この花びらはどこから落ちてきたのだろう?なぜなら、花びらの一ひらが落ちたとも思われぬ満開の花のふさが見はるかす頭上にひろがっているからでした。

バショトリアン達に混じり、
夕方からバショトリしてみた。
こんなことしたのは
初めてかもしれん。

酒と絨毯を抱えて冷泉公園へ。
座り込んで上を見上げれば、
花。花。花。
飽きぬ。

しかし、既にあたりには
不気味な強風が・・・・


参加者が一人、また一人と出揃って宴も始まり、やがて全員が・・・揃うのと、
春雷が鳴り響いてパラつき始めるのと、ほぼ同時。

片付けるために腰を浮かせる集団も現れるも、うちはひとり、巫女を抱えておるので、
本降りする雨との距離を測ってくれる。
その他凡人はそのセンサー任せで、飲み食いを続ける。

  
足早に退散する一群が近づいてきて
「あんただち、ま〜だおるね?」
「ハイ☆」
手付かずの品々、いただきました。あと、ビールとかも。

巫女はオヤジひきつけ能力もあり。


鳴り響き続ける春雷。
グレーを混ぜた群青の空が頻繁に薄青く光る。

「そろそろ片付けんと!
今片付ければ部屋まではモツはず!」

巫女の号令に従い、敏速に片付け開始。
すぐ近くのあたくしの部屋へ移動。

部屋到着後、一気に強まる雨足。
巫女おみごと。
→→視線の先には
 江原さん。

「霊のせいばっかりにしちゃ〜いかんねぇ。」とわかる話をやっていた。



  ★そこをちゃんと受け止めておいてね★



当然の如く、

ワイン開け中。

当然の如く、

また飲む、食う。
木の下での飲み食いを忘れ、飲む、食う。
桜を忘れて、飲む、食う。
たった今この部屋に集合したかのように。
それもこれも、
ぜんぶ桜がわるいのよ。
だって人を狂わせてしまうんだもの。

その夜、すさまじく狂わされた者どもは、
酩酊泥酔1名、ハイテンション1名、
普段飲めないのについ飲んでしまった1名、
やっぱり飲まずにバスに合わせて帰った1名、
まともだった家主1名。

しかも、
ものすごい勢いで皿を洗い、精算もすませ、しゃべりつつ、
ぢゃあまた、とにこやかに皆帰った・・・

と思ったのは大まつがい。

翌日、
洗って伏せてあるすべての皿にはカラシ&生姜の洗い残し、
箸にはべっとりおはぎのカス、、、、
それをメールで知れば知ったで、
酔っ払っていたのは自分だけじゃなかったのかと知って安堵する者、
洗ってもいない皿をきっと自分が洗ったのだろうと謝る者・・・・・

春の嵐でありました。

おお怖・・・・桜のせいぢゃ。

酔っ払いたちに、
「食べた」事実もすっかり忘れ去られていた
桜おはぎ に 桜巻き寿司。


あの酔っ払いぶりからすると、
女将的に いつも皆の置き土産をもらってるので
今回のワタシ出しの経費は精算にはカウントせんで結構!
とゆったのも 
おそらくは、まったく記憶されてはおるまい。  ちっ・・・

明けて、卯月の 雨上がり。



人気の少ない
日曜日の
大学構内。

薄霞の中、
並び咲きほころぶ
この
薄ピンク。

意思をもって
せーの で
化けて出たとしか
思えぬ。

たしかに、
桜の
木の下に
人の姿が
ないのは
怖ろしいばかり。

ぞっとした。

 男は満開の花の下へ歩きこみました。あたりはひっそりと、だんだん冷たくなるようでした。彼はふと女の手が冷たくなっているのに気がつきました。俄に不安になりました。とっさに彼は分りました。女が鬼であることを。突然どッという冷たい風が花の下の四方の涯から吹きよせていました。
 男の背中にしがみついているのは、全身が紫色の顔の大きな老婆でした。その口は耳までさけ、ちぢくれた髪の毛は緑でした。男は走りました。振り落そうとしました。鬼の手に力がこもり彼の喉にくいこみました。彼の目は見えなくなろうとしました。彼は夢中でした。全身の力をこめて鬼の手をゆるめました。その手の隙間から首をぬくと、背中をすべって、どさりと鬼は落ちました。今度は彼が鬼に組みつく番でした。鬼の首をしめました。そして彼がふと気付いたとき、彼は全身の力をこめて女の首をしめつけ、そして女はすでに息絶えていました。

桜の林の写真を一人で撮っていたら、最近ケータイにつけた、
魚の骨スタイルのストラップ(明和電機のやたらと長い魚コード(なこーど) )が、
とれて無くなっていることに気付く。

あの、はっ、とする瞬間。
・・・・さっきまであったはず・・・・
足元の草むらをウロウロと探し回るのも、不思議な懐かしい感覚。

あった。

しん、とした桜の林のそばで、ふっとあたしの身を離れ、
草の上に落ちている。
モノが無くなってしまう時、
落とす時、
ってなんかいつも
モノの意志を感じる。

この人気の無いさびれたグランドの草の上に落とした 魚コードも
恵比寿か渋谷の駅の雑踏の中で落とした
買ったばかりの 桜の花びらのついた銀細工の鍔も。


 彼の目は霞んでいました。彼はより大きく目を見開くことを試みましたが、それによって視覚が戻ってきたように感じることができませんでした。なぜなら、彼のしめ殺したのはさっきと変らず矢張り女で、同じ女の屍体がそこに在るばかりだからでありました。
 彼の呼吸はとまりました。彼の力も、彼の思念もすべてが同時にとまりました。女の屍体の上には、すでに幾つかの桜の花びらが落ちてきました。彼は女をゆさぶりました。呼びました。抱きました。徒労でした。彼はワッと泣きふしました。たぶん彼がこの山に住みついてから、この日まで、泣いたことはなかったでしょう。そして彼が自然に我にかえったとき、彼の背には白い花びらがつもっていました。

そしてまた、この魚コード、
ときどき月影屋の、髪の毛的な飾り紐に
非常に絡まるのだった。

こうして見ると、やっぱり
おどろおどろしい。
さすが月影屋だ。

その二日後、
江戸の姥桜が、はらはらはらはら、はらはら、はらはらはらと、
花吹雪を散らしておった。



卯月のはじめの江戸の姥桜は、博多より1日ねえさんな姥桜。
そしてここでも、冷たい雨を連れてくる春雷が鳴り響く。
永遠の景色のように、花吹雪を舞わせつづける。
恨みを晴らすために咲き出でたとしか思えぬ潔さで、ただはらはらはらと。
姥桜の価値はあそこにある。あの散らせっぷり。お見事。


花吹雪が呼び起こしたような、春雷につづく四月の雪。
その冷たい花散らしの騒がしさの中、
晴れた夜空だったという博多の、満月のもとの一日若い姥桜を想った。

博多に戻れば、卯月は五日、晴れ渡り、
でもまだ、江戸ほどではないにせよ少し肌寒さも残り、
おかげで生きながらえておった一日若い姥桜たちよ。






己の体を侵食してくる若葉をものともせず、
花を花として 踏ん張っているところが、かなりイイ姥桜。

これぞ鑑ぞ。

時に従い、暦に従い、進んでゆく己の体の
シワも白髪もシミも若葉も、
それはそれ。
上を向いてバンバン大股歩きをしているような、
うつくしさ。

 そこは桜の森のちょうどまんなかあたりでした。四方の涯は花にかくれておくが見えませんでした。日ごろのような怖れや不安は消えていました。花の涯から吹きよせる冷たい風もありません。ただひっそりと、そしてひそひそと、花びらが散りつづけているばかりでした。彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。いつまでもそこに坐っていることができます。彼はもう帰るところがないのですから。
 桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは「孤独」というものであったかも知れません。なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。彼自らが孤独自体でありました。
 彼は始めて四方を見廻しました。頭上に花がありました。その下にひっそりと無限の虚空がみちていました。ひそひそと花が降ります。それだけのことです。外には何の秘密もないのでした。

油断しているヒトの先回りをしては、せーの で開く桜たちは、
満月のように ヒトの本性をあぶりだすのかもしれぬ。

ヒトを集めて酔わせて騒がせて、
けれど桜は、
一人一人の心をあばいて見透かすような
捨て身の姿でやってくる。

なにせ、散るために咲き出でるのだから、
カッコつけたがる性をもつ地上のヒトなど、誰もかなうまい。

今思えば、あの花吹雪の江戸の夜も、
戻ってきた博多での卯月六日の夜のことも、
腑に落ちぬ言葉の一つ一つに 本心から湧く怒り。
あれは桜のせいであろう。

聞き流すがオトナとするにせよ、
それは世の流れを変えずに済ます妥協。

桜の後押しが無ければあるいは、オノレの オトナへの仲間入りを祝しつつ
聞き流し、水に流しもできたやもしれぬが、
なにせ 桜の狂う夜。

怒りは 怒りとして
不満は 不満として
桜の力を身に受けながら、
毎夜毎夜 吐き出しました。

たいせつな、たいせつな 歌の出口を塞ぐ埃のような鬱々を。
そして それは、
きっちりと おそらくは次の希望へと つながってゆくきっかけとなったとも思われ・・・。

吐き出させてくださいました。処女桜、夜桜、姥桜。

 ほど経て彼はただ一つのなまあたたかな何物かを感じました。そしてそれが彼自身の胸の悲しみであることに気がつきました。花と虚空の冴えた冷たさにつつまれて、ほのあたたかいふくらみが、すこしずつ分りかけてくるのでした。
 彼は女の顔の上の花びらをとってやろうとしました。彼の手が女の顔にとどこうとした時に、何か変ったことが起ったように思われました。すると、彼の手の下には降りつもった花びらばかりで、女の姿は掻き消えてただ幾つかの花びらになっていました。そして、その花びらを掻き分けようとした彼の手も彼の身体も延した時にはもはや消えていました。あとに花びらと、冷たい虚空がはりつめているばかりでした。

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2007年4月14日


 しかも傘お忘れ。